【しあわせバイ信州Must buy items #25】 木から糸ができる!? サーキュラーエコノミーを実現し、根羽村産木材の新たな可能性をひろげる株式会社グリーンベネフィット@長野県根羽村

株式会社グリーンベネフィットという企業を知ったのは、2024年5月に行われた「しあわせバイ信州運動」のキックオフイベントでした。長野県の阿部守一知事が着ていたジャケットが、根羽村産の“木の糸”を使ってつくったものだと聞いて「木の糸でつくるジャケット!?」と大変驚き、一体どうやって作るのかと、とても不思議でした。ちなみにジャケットのボタンは#19で紹介した株式会社SORENAが手がける「りんごレザー®」を使ったくるみボタンが使われていました。

そんな木からつくる糸をはじめとした根羽村産の木材を使った新しい取り組みを、グリーンベネフィットの代表を務める岩見さんにお聞きしてきました。

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根羽村産スギの木からつくったタオルを製造・販売

長野県の最南端に位置する根羽村は総面積の92%を森林が占め、林業が盛んな地域です。間伐材から糸をつくろうと思ったきっかけは、木材需要の低迷からでした。

「それまで木材の活用用途は建材くらいしかなかったんです。新たな活用方法はないかと探しているなかで、徳島県にある企業がスギの木でタオルを作っていることを知り、森林組合で視察に行ってきたんです。それでノウハウを教えていただいたんですが、専門の機器を入れて今からその事業をはじめるとなるとちょっと難しいということで、OEMでタオルを作ってもらうことにしました」

きっかけは、根羽村産のスギの木を使ったタオルからでした。

「自社でゼロから何かをはじめるってすごく時間がかかるけど、企業と手を組んで一緒にやると可能性は広がり、いろいろなことができる。ジャケットのりんごレザーのボタンもそうですよね。これからも長野県が推進している『しあわせバイ信州運動共創ネットワーク』に協賛している企業と、SDGsに寄与した県産品の開発を一緒にできればと思っています」

今後もさまざまな企業と組んで、根羽村産の木の糸でつくった製品を発信していきたいと岩見さん。木の糸タオルは“信州の四季”をテーマに、大町市にいる草木染めの専門家に染めてもらい新たな信州土産品に。東御市にあるワイナリーでは、木糸でつくりワイン染めにしたサスティナブルエプロンをスタッフが着用。お客さんとの会話が生まれ、長野県の魅力を発信するきっかけにもなると岩見さんは話します。

信州の四季をイメージした四季彩。左から「蕎麦」「冬青そよご」「夜叉五倍子やしゃぶし」

森から生まれ森へと帰る100%天然のエコ素材

では、木の糸はどうやって作られているのでしょうか。

「まず間伐材を細かくチップ状にし、植物性の繊維であるセルロースを抽出するんです。そしてこのセルロースを四国へ持っていき、和紙にしてもらいます」。特殊な技術だそうで、日本全国探してもこの四国の企業しかできない製法なのだそう。そして強度を増すためにアバカ(麻)を加え伸ばしてから裁断。これをこより状に編んでいくと木糸になるそう。

「よくレーヨンと何が違うのか?と聞かれるのですが、レーヨンも植物を原料としているところは同じですが、レーヨンは糸に再生成するときに化学薬品を使うんですよね。その点、木の糸は化学薬品を使いませんから土へ埋めれば微生物によって分解され自然へと還っていく環境に優しい素材なんです」

大阪・関西万博、医療チームのユニフォームに採用

そんな根羽村産の木材から生まれた木の糸は、2025年春に開催される大阪・関西万博において医療チームのユニフォームに採用されました。

「木はCo2(二酸化炭素)を吸収してくれるので、たくさん切っちゃいけないんじゃないかと思いますよね。でも木も人間と同じで、80年モノともなると吸収力も衰えてくる。やはり20代、30代が一番いい仕事をしてくれるんです」

古い木を切り、新しい木を植え世代交代をさせる。そうすることで山が元気になり循環のサイクルが生まれると岩見さんは話します。

「山を管理していないと大雨が降ったときにそのまま流れ川が氾濫する。そうするともう里には住むことができないですよね。山がいかに大切かという話を子どもたちにもっと伝えていかないといけないんです」

岩見さんが取り組んでいるもう一つの環境教育が「子どもたちの小さな家」という提案です。根羽村の木材を使った仮設小屋で、組み立て式なので、大人なら誰でも手作業で建てることができるのが特徴です。

「子どもたちが遊ぶのにちょうどいい大きさですし、木の香りや感触は子どもの成長や健康に良い影響を与えます。それに設計図通りに組み立てられるキット式の小屋なので、お子さまのために親御さんがつくってあげられるんですよ」

手でつくることができ解体もできるので、震災時の避難場所など、必要なときに必要な場所へ設置できるのもポイントです。

岩見さんはグリーンベネフィットの代表以外に、根羽村森林組合の参与、根羽村役場では地方創生アドバイザーをも務めています。

「最近はお土産も“Made in Japan”が少なくなってきている」と岩見さん。木の糸、木の組み立て式の小屋のほかに、子ども向けの木のおもちゃなどもつくり「長野県の木のお土産品」の提案も行っています。

今後は木の糸の強度を高め、デニムの製造会社と手を組みかっこいい作業服を作ることも計画しているそう。

「林業も高齢化なので、形からというか、かっこいい作業着を作って着ていれば、若い人や女性にも興味も持ってもらえるのではと思っています」

できればもっと県内企業と手を組んで、根羽村の木材を発信していくことができればと岩見さん。

「木の糸の製造は県内でつくれるところがないので県外にお願いしていますが、すべて県内企業と一緒につくることができれば一番いいですよね」

そのためにはもっと根羽村産の木材からできる木の糸を、そして木の糸を使ってつくるタオルやエプロンをもっとたくさんの方に知ってほしい。そして私たちは手に取り選ぶものを、長野県産のものを選んだりできるだけ環境にやさしいものを選ぶようにしたい。それが信州の未来につながり、子どもたちにつながる、そう実感した一日でした。

■グリーンベネフィット
https://greenbenefit.co.jp

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