食べる喜びは生きる喜び。暮らしの延長にある、自分を労うための“名もなきごはん”「ごはんと喫茶 ミトカ」@長野県長野市

新年度を迎えてしばらく。慌ただしい毎日を過ごしていた人たちも、そろそろ落ち着いた頃でしょうか?
ふと、日々の食事が、ただ空腹を満たすだけのものになっていないか考えるきっかけがありました。

長野市三輪の閑静な住宅街。
塚田和大さん、香里さん夫妻が“暮らすように働く”生き方を大切にしながら営んできた「暮らす店 実と花(ミトカ)」と「珈琲 薫蔵(カグラ)」が、2024年4月からごはんと喫茶の店に生まれ変わりました。
ここで振る舞われるのは、オシャレなカフェ飯でも特別なごちそうでもありません。ふたりの暮らしの延長にある“名もなきごはん”です。

「今週のごはん」(1,000円)の一例。写真は「春キャベツと豚バラのバター蒸し」。メニューは週替わりで、圧力鍋で炊いたごはんと季節野菜の味噌汁が付きます。

塚田和大さん(左)、香里さん(右)。

──今まで別々に営業していた「実と花」と「薫蔵」がひとつになった背景には、どんな想いがあったのでしょう?

和大さん「まずは、より多くの人に利用していただきたいという想いがあります。以前は夜の営業時間に夕飯としてごはんをお出ししていましたが、一日を通して好きな時に好きな使い方ができるよう、良い意味でカジュアルダウンしました」

香里さん「お昼ご飯を食べ損ねちゃったりとか、ちょっと遅めの時間でもちゃんとお昼を食べたいという方がけっこういらっしゃるので。夜営業もリニューアルで17時30分からになったことで、仕事帰りにそのまま寄りやすくなったみたいです」

和大さん「ごはんは実と花のテーマであった”暮らす店”の延長ですね。僕たちが普段食べているようなごはんをご用意したら、常連さんたちも喜んでくれるかなって」

香里さん「私たちがお出ししているのは、”作っている人の温度を感じられるごはん”です。ひとり暮らしの方とかは、自分で作ったり、買ってきて食べるということが多くなりがち。『今日のごはんは何かな?』という気持ちで食べられる、”おうちのごはん”をご用意しています」

和大さん「定食屋さんはあっても、こういう家庭料理のお店って案外少ないんですよね」

香里さん「ごはんと喫茶の店になってから感じたのは、みんなが同じものを食べるのってすごくいいな、ということ。以前よりお客さま同士の距離が、ちょっとずつ近づいているように感じるんです」

和大さん「『もうあれ食べました?』とかね(笑)」

香里さん「そうそう!別のグループでも自然と会話が生まれて。カウンターに座る方々が『おいしかったですよね』と話している様子を見ると、ひとつの家族のような温かさを感じます。家族でも、家だとみんな一緒のものを食べますよね。『誰かと一緒にごはんを食べるのは久しぶり』と言ってくださる方もいました」

和大さん「もちろん、ひとりでゆっくり食べたい方もいたり、お友達同士で食べている方もいるんですけど、なんとなく私たちや他のお客さんの温度を感じながら、緩やかに繋がっている。そんな、ちょうどいい距離感が生まれています」

左は「今週のごはん」の一例「大葉と茗荷の豚バラ丼」。時には丼ぶりが登場することも。

右は豆乳を固めて作る、台湾の伝統的なおやつ「豆花(トウファ)」(550円~)。サイズ、トッピング、シロップがお好みでカスタマイズできます。通年のトッピングはあずき、白きくらげ、ピーナッツで、そのほかは季節替わり。写真はあずき、お煎茶のゼリー、甘夏の砂糖漬け。

和大さんが淹れるコーヒーは全部で3種類。
さわやかな果実味とやさしい甘さの浅煎り「爽 -sou-」
まろやかなコクと柔らかな果実味の中煎り「円 -en-」
芯のあるコクとほのかな果実味の深煎り「深-shin-」

浅煎りが山梨県の「AKITO COFFEE」、中煎り・深煎りは和大さんの出身である東京都の「堀口珈琲」から仕入れているそう。
これらをペーパードリップ、ネルドリップ、ステンレスドリップの中からお好みの淹れ方で楽しめます。
平日限定で3種のコーヒーと3種の淹れ方を楽しむ飲み比べも。
6月頃からは薫蔵でも人気だった「コーヒーレモンスカッシュ」が登場予定です。

新しいロゴマーク。
当初、店名はどちらも愛された店から名前を取って「ミトカとカグラ」にする予定だったそう(イラストは女の子がミトカちゃん=香里さん、男の子がカグラくん=和大さんのイメージ)。
わかりづらいうえに長いということで、それぞれの店名の頭文字を取って「ミトカ」に。

香里さん「今まで夜は一緒に営業しつつ、昼はカズさん(和大さん)は薫蔵、私が実と花を切り盛りしていました。それも、それぞれにとって良い経験だったんですが、どうしてもひとりではやりきれないことがあって」

和大さん「忙しいタイミングだと、もうちょっとゆっくり話したかったな、このタイミングで声をかけられたらもっと良かったな、とか考えることがたくさんありました」

香里さん「それが、ふたりで営むようになってからお互いに安心して任せられるので、自分のできることを気兼ねなくできるようになりました。あとは、私たち自身の生き方もちょっと変えたくて。開店準備や仕込みで忙殺されると朝ごはんを一緒に食べなかったり、簡単なもので適当に済ませちゃったり……今は毎日、ちゃんと一緒に朝ごはんを食べています(笑)。それが一番いいよね」

和大さん「店名から”暮らす店”っていうのは取っちゃいましたが、大事にしているものはずっと変わりません。今回のリニューアルで、より”暮らす店”になったと思います(笑)」

──”暮らすように働く、働くように暮らす”が、おふたりの大切にされている生き方ですもんね。

和大さん「あとは、ネット社会の流れからちょっと外れたいという思いがありました。ただ発信するための情報として、消費されすぎてるかなって……」

香里さん「もちろん、SNSをきっかけにうちを見つけてくださって、たくさんの方々と出会えたのはありがたいことですが……撮影をして情報を持って帰るだけではなく、ここで過ごす時間や経験をしっかり味わってほしいという想いがずっとあります。それが、ふたりだったらもっとその経験を豊かなものにできると思うんです」

さまざまな情報があふれ、目まぐるしく変化する時代。
いつの間にか食事が自分のためではなくなっている人も多い中、塚田さん夫妻が提供する“作り手の温度を感じるごはん”は、私たちが本来大切にすべき“食べる喜び”を思い出させてくれます。

香里さん「普段は作ってあげる側の人も、時には誰かに作ってもらったごはんが食べたくなる時があると思うんです。『今日のごはんは何かなあ』って。待っている時間も含めて、毎日を頑張る自分を労うための食事を楽しんでください」

ごはんと喫茶 ミトカ(ゴハントキッサ ミトカ)
●住所
長野県長野県長野市三輪8-37-4
●電話
090-8974-2325
●営業時間
11時~16時(15時30分LO)、17時30分~20時30分(19時45分LO)
●定休日
木・金曜、その他不定休あり
●席数
約14席
●駐車場
6台 ※1組1台での乗り合わせをお願いします
●Instagram
営業日とごはんと甘味:https://www.instagram.com/mitoca.kurasumise/
喫茶メニュー:https://www.instagram.com/coffeekagura/
豆花の記録:https://www.instagram.com/mitoca.douhua/
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