「戦後80年」の2025年が暮れようとしています。現在の日本は平和ですが、世界に目を転じれば戦争や紛争が絶えない状況です。またSNSなどでは過激な言葉が生まれ、「分断」や「生きづらさ」すら感じる時代に・・・。節目の年の最後に、善光寺大勧進の栢木寛照貫主と、直木賞作家で軽井沢町在住の村山由佳さんが「平和・自由・幸せ」について語り合いました。
「初めてなんですよ。近くに住んでいるのにね」と善光寺を訪れた作家の村山由佳さん。2010年から軽井沢町を拠点にして創作活動を行っています。迎えた栢木貫主は「善光寺は、1400年の間、女人禁制が1回もない。だから女性に優しいお寺なんですよ」と説明しました。

薄らぐ戦争の記憶 2人の思い
村山さんは、父親が体験した過酷なシベリア抑留などを題材にした「星々の舟」で、第129回直木賞を受賞しています。「私は昭和39年生まれですから、まだ周りに戦争の記憶を色濃く持っている人たちがたくさんいたんです。でもそうした人が80年目にもなるとほとんどいらっしゃらない。直にそうした経験を聞かずに育ってきた人たちが今、社会を作っているわけですから、危機感みたいなものをここ10年ぐらい抱き続けています」。

栢木貫主も戦後生まれですが、子どものころは戦争の影響がまだ残っていたと語ります。「朝鮮戦争が始まって、B29という飛行機が編隊を組んでゴーっと空を飛ぶんですね。そうすると、戦争経験ありませんけども、みんなが隠れましたね」。そんな栢木貫主が、力を入れてきたのが「子供たちの平和教育」。集団自決の悲劇があったサイパンに、子供たちを自費で連れて行き、「平和の尊さ」を知ってもらう活動を40年以上続けてきました。
戦争の悲惨さ、愚かさを伝えてきた2人。対談は昨今の風潮にも及びました。
「水はいきなり煮え湯にならない」。村山さんは、気づかぬうちに状況が悪化していく、いわゆる「ゆでガエル理論」を引き合いに出し、権力や多数決で決まったことに迎合し「ノー」を言わない風潮に警鐘を鳴らしました。「ゆでガエルになってしまわないうちに、私たちが嫌だって言える空気も必要だし、社会も必要だし、私たち個人もその何というか、反骨精神みたいなもの持ってないといけないなって思うんですよね」。それは戦争を生き抜いた村山さんの父の教えでもありました。
今こそ「利他の精神」を
SNSで飛び交う攻撃的な言葉、そこから派生する極端な考え。栢木貫主は「自由の意識の履き違えている」人が多いと指摘します。「何でも自由だと。で、自分の思いのままになることが自由の社会なんだと」「そして結局、思うようにならないと、暴力的になったり、暴言を吐いたりですね、そういう方にガッと流れていってるんじゃないかなと」。

だかこそ今は「仏教の根本、お釈迦様の根本」である「利他」(自分のことよりも他人の幸福を願うこと)の精神が求められていると栢木貫主は語ります。
次世代へのメッセージ
平和や自由、創作活動、猫(二人は愛猫家)、そして幸せと多岐に渡った対談。最後は次の世代へのメッセージ。
村山さんは「幸せは、とにかく待っていても手に入らないもの」と語ります。「日々の努力がない限り、平和も幸せも何も保たれていかないということなんだと思います」。
利他の精神を唱える栢木貫主は「7割人の幸せを願って、3割自分の幸せを求める」「相手が幸せでなければ自分も本当の幸せにはならない」と語りました。

紹介した2人の言葉はほんの一部。戦後80年の締めくくりに、番組をご覧になって、皆さんも未来へ伝えるべき大切なものは何かを考えてみてはいかがでしょうか。
放送局:NBS長野放送
放送: 2025年12月30日(火)午後2時20分~
出演 善光寺大勧進 栢木寛照貫主
作家 村山由佳さん (軽井沢町在住)

