【しあわせバイ信州Must buy items #30】 伝統工芸の価値と技術を次世代へ継承する木曽漆器工業協同組合@長野県塩尻市

塩尻市木曽平沢を中心に古くから伝えられる木曽漆器。地域を代表する伝統的工芸品を後世に伝えるべく、さまざまな取り組みを行っているのが木曽漆器工業協同組合です。今回は事務局長の武井さんに登場いただきお話しをお聞きしました。

国が指定する伝統的工芸品・木曾漆器

400以上の伝統があるといわれる木曽漆器。木曽地域は、豊かな森林資源や漆器製作に適した温・湿度等の気象環境にめぐまれ漆器の産業が栄えたといわれています。

また、木曽漆器が全国に広まっていったのは、明治初期に地元で錆土(さびつち)が発見されたことも大きかったそうです。 

「鉄分を多く含むので漆と混ぜるとすごく丈夫な下地ができ、堅牢な漆器ができるようになるんですよ」と武井さん。

錆土を混ぜた漆を重ね塗りし研ぎだした「木曽堆朱」のおかげで、木曽漆器ブランドが広く確立していったのだそうです。

地元産の漆を採取するために植樹し管理

漆の原材料はウルシという木の樹液を使います。この樹液を収集する専門の職人を漆掻き職人というそうで、長野県で活躍しているのはわずか1人のみ。県内唯一の漆掻き職人だそうです。

「ウルシの木に傷をつけて樹液を採取します。手ごろな木からとれる漆の樹液は約200cc(牛乳瓶1本ほど)で、近年では漆を採取すると木は伐採し、また新しい木を植える方式がとられているんですよ」

木曽漆器工業協同組合では地元産の漆を確保するため、塩尻の里山を借り1000~1300本ほどを植樹、育成管理しているそう。この活動が評価され「令和6年度長野県ふるさとの森林づくり賞」では県知事賞を受賞。

「ウルシの育成を半世紀以上続けているので、今後も持続可能であることを評価していただきました」と武井さん。

また、1998年の長野冬季オリンピックのメダルは木曽の漆職人によって提案から制作まで行われました。表面は漆塗りで金粉蒔絵を施してある金、銀、銅のメダル。「道の駅 木曽ならかわ」にある「木曽くらしの工芸館」ではメダルの展示も行っています。

壊れたら修復し、長く愛着持って使う

木曽漆器工業協同組合の事務所は「道の駅 木曽ならかわ」に併設。こちらの道の駅では、木曽漆器販売の伝統工芸品、地元ワインなどの名産品や農産物などの販売が行われています。

製品や作品には、職人や店舗を案内する地図などが明記されたカードも添えてあるので、実際、気に入った職人の店舗を訪れることもできるそう。その他、長野県伝統工芸品の常設展示場(無料)も設置しています。

「1個5,000円の器って高いと思いますか? 確かに5,000円の器を買って使わないで置いておけばそれは高いかもしれませんよね。でも5,000円の器は毎日使えば原価償却できるし、傷めば修理可能でずっと使える。使えば使うほど愛着が湧いて大切に使おうという意識も出てくるんです」

できるだけ長く大切に使ってもらいたいので、個人客からの修理も受け付けています。

「県内はもちろんですが、東京からもわざわざここまで『直してほしい』と持ってきていただく方もいらっしゃいます。一番遠いところだとイギリスから依頼が来たこともありました」

「道の駅 木曽ならかわ」から車で5分ほどの場所にある木曽平沢地区は、漆製品を作り出す職人が集まる漆器の町として知られており、街並みは全国漆器産地唯一、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されています。

高度成長期には500人をこえる漆器職人がいたそうですが、今では1/3程度まで減ってしまいました。

「全国のさまざまな伝統工芸の産地はどこでも後継者不足なんですよね」と武井さんは嘆きます。

「後継者育成の一環で、市から派遣されている地域おこし協力隊員がいて、技術を覚えてもらうというミッションをもっているんですよ」

木曽漆器づくりの基礎を学ぶとともに、文化財修復の技術も継承しているそうで、「漆文化修復・復元など、受注した物件の漆塗りの工程を地域おこし協力隊の方にも担っていただき、ベテランの職人から技術を学びながら、技術伝承やものづくりの楽しさを身に着けていただいています」

日本古来の伝統、木曽漆器を伝えるべく、さまざまな取り組みを行っている同組合。2024年には長野県の伝統工芸品を一堂に集めた展示場「信州の伝統的工芸品」をオープンしました。

「長野県の伝統工芸品やクラフト工業品など、“ものづくり”という定義で集めた作品を常設展示しています」

国と県指定のほか、県内の伝統工芸品などが展示された県内最大規模の展示場。入場無料なのでぜひ立ち寄ってみてください。

また毎年6月上旬の土・日曜には「木曽漆器祭・奈良井宿場祭」という、大きな漆器祭りを開催(2025年は6月7日(土)、8日(日)の予定)。木曽平沢地区のノスタルジックな町並みを歩きながら、この日しか出ない特別な漆器の販売や工房見学、ワークショップやマルシェなどの催しも予定しているそう。掘り出しものもたくさん並ぶので、この機会にぜひ“本物”を触れに訪れてみてください。

■木曽漆器工業協同組合
http://kiso.shikkikumiai.com/main.html

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