諏訪大社のほど近く、歴史ある街並みが続く下諏訪町。ここに、オープンと同時に多くの人が行列を作る人気ベーカリーがあります。その名は「コノミ製パン所」。2025年の元旦、新たな年の始まりとともに産声を上げたこのお店は、瞬く間に地元の人々や観光客の心を掴みました。
店主を務めるのは、井谷 好さん。大阪でパン職人としてのキャリアをスタートさせ、東京での修行を経て、この地に移住してきました。井谷さんがパン作りにかける想い、そして多くの人を惹きつけるパンの魅力を紐解きます。

自然豊かな信州・下諏訪町へ
オープンは2025年の1月1日。諏訪大社への初詣で賑わうこの日に合わせて、お店を開きました。早朝から参拝に訪れる人々にとって、焼きたてのパンの香りは嬉しいサプライズとなったことでしょう。
店名の由来を尋ねると、井谷さんは「私の名前、好(コノミ)なんです。だから、コノミ製パン所」とはにかみながら教えてくれました。好み……人それぞれ、好きなもの。自身の名前を冠したこの場所は、まさに井谷さんのパン作りにかける想いを体現しています。

井谷さんは大阪府の出身。製パンを学ぶ専門学校を卒業後、大阪のベーカリーで経験を重ね、さらなる高みを目指し東京へ。南大沢の「チクテベーカリー」や、代々木八幡の「365日」、清澄白河の「iki Roastery & Eatery」のほか、レストランが経営するパン屋でシェフとしての経験も積み、腕を磨きました。
都会での充実した日々を送る一方、満員電車や人の多さに息苦しさを感じることもあったといいます。いつしか「自然の豊かなところへ行きたい」という想いが募り、すでに多くのパン屋がある東京や大阪ではなく、新しい場所での挑戦を決意。旅行でたびたび訪れ、その自然に魅了されていた長野県が移住先の候補に挙がりました。
「移住相談のサイトに登録したら、一番最初に連絡をくれたのが下諏訪町の地域おこし協力隊だったんです。実際に行ってみたら、雰囲気も良くて。県外から移住してお店を開く人も多いし、移住者を温かく受け入れる土壌があると感じたんです」。
先輩移住者との出会いや、「パン屋がほしい」という地域からの声、そして空き物件との巡り合わせ。いくつもの縁が繋がり、この地での開業が実現しました。

訪れるたびに心ときめく、“お客さん目線”のパン
店内には約60種類のパンがずらり。「私がお客さんだったら、こんなパン屋に通いたい。そんな目線でお店を作っています」と語る井谷さん。大阪時代、パン屋巡りが大好きだった井谷さんが理想とするのは、“来るとときめくような、わくわくするお店”。
そのこだわりは、商品の隅々にまで行き届いています。まず驚くのが、素材の使い分け。小麦粉は国産を中心に12種類、さらにライ麦2種類、自家製酵母4種類、イースト2種類をパンに合わせてブレンド。これにより、もちもち、サクサク、ガシッと硬いものなど、一つひとつがまったく異なる食感と味わいを生み出すのです。

「全部自家製酵母で、全部小麦粉で作ると、どうしても似たような味になっちゃう。『具材は違うけど同じ生地でしょ?』と言われた時に、『実は違うんです!』とお伝えできるよう、いろんな製法を取り入れて、全部違う見た目、違う食感、違う味のパンを作っています。種類もたくさんあったら、選ぶ時間が楽しくなりますよね」。
その言葉通り、定番のクロワッサンとパン・オ・ショコラでさえ、それぞれに最適な生地を仕込むという徹底ぶり。フィリングもカスタードやボロネーゼソースに至るまで、そのほとんどが自家製です。

これらのパンを最高の状態に焼き上げるのが、この溶岩窯。遠赤外線効果の効果で、表面がパリッと香ばしく、中はしっとりとした食感に仕上がります。

おすすめを尋ねると、「ここでしか買えないパンを作りたいと思って、下諏訪町ではあまり見かけない、デニッシュ系やハード系に力を入れています」と井谷さん。なかでも、石臼挽き小麦で作る「発酵バターのクロワッサン」と「サワードゥ」は看板的存在です。

また、井谷さんと同時期に独立した元同僚が営む、埼玉県の「public coffee」のドリップコーヒーやオリジナルブレンドのカフェラテベースも販売。香り高いコーヒーとともに、パンを味わう時間も楽しめます。

地域との繋がりから生まれる、新たな味
井谷さんは、地域の食材を活かしたパン作りにも積極的に取り組んでいます。秋には下諏訪産のりんごをたっぷり使ったアップルパイ、夏には地元野菜をふんだんに使ったキッシュが登場するなど、季節ごとの味覚が楽しめます。
そして、この冬から新たに加わったのが、地元の「松野屋とうふ店」とコラボした「とうふドーナツ」。乳製品や卵を使わず、絹ごし豆腐の豊かな風味を生かした素朴で優しい味わいと、弾力のあるもちもちとした食感が特徴です。お客さんからの「ヴィーガン系のドーナツが食べたい」という声に応え、手頃な価格で提供したいという想いから生まれました。
今後もこうしたコラボに加え、味噌や甘酒など地元食材を使ったパンにも挑戦していきたいそうです。

曜日で顔を変えるパン屋へ
オープンから1年が経ち、井谷さんは早くも次のステージを見据えています。
「曜日ごとに、商品がまったく違うお店をやりたいと考えているんです。水曜日はドーナツと菓子パンなどソフト系のパン、土曜日はハード系とデニッシュ系。両方行かないとコンプリートできないみたいな!(笑)」。
将来的には、お店に並ぶパンの種類を100種類にまで増やしたい、と井谷さんは目を輝かせます。また、遠方からの要望に応えるため、通販の準備も進めていきたいとのこと。
「お客さんだったら、どんなパン屋に通いたいか」。その純粋な探求心から生まれるパンは、訪れるたびに心をわくわく、どきどきさせてくれます。下諏訪町を訪れた際には、ぜひ「コノミ製パン所」に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。あなただけの「好み」のパンが、きっと見つかるはずです。
(コノミセイパンジョ)
●住所
長野県諏訪郡下諏訪町5382-9
●営業
毎週土曜12時~、ほか不定期で水曜営業
※売り切れ次第閉店
※営業日の詳細はInstagramを確認
※来店予約はこちらから(完全予約制ではありません。予約なしでもパンの購入はできますが、ご都合に応じてご利用ください)
●駐車場
町営駐車場(友之町、町営四ツ角)2時間無料
https://www.instagram.com/konomi_seipanzyo/
