人生の深みが滲み出る!個性強火な「超老芸術」が今おもしろい【PR】

2023年秋、静岡市で初めて開催され大きな注目を集めた「超老芸術展」が、池田町の北アルプス展望美術館(池田町立美術館)にやってきました!

“超老芸術”とは、“老いを超える”という字のごとく、高齢になってから、または高齢になってもなお、独自の創作を続ける高齢者による芸術表現のこと。社会的環境から解き放たれ、他者の目を気にせず、時間と情熱をとことん注いで生み出されるアートは、豊かな人生経験や深い人間味に満ちあふれています。

そんな超老芸術に光を当て、今回の展覧会を企画したアーツカウンシルしずおかの櫛󠄁野展正さんに、作品に滲み出る魅力と気になる作者の人物像について解説してもらいました。

目次

「超老芸術展」in池田町

標高634mのあづみ野池田クラフトパークに立つ、北アルプス展望美術館。その名の通り、北アルプスの山々と安曇平が一望できる気持ちのいい場所です。

こちらで現在開催されている超老芸術展。初開催となった静岡で、大きな話題を呼んだ展覧会です。
今回は、長野をはじめ7組の超老芸術家による約500点もの作品が展示されています。

福祉と芸術の狭間にある表現を紹介

“超老芸術”の名付け親であり、超老芸術展を企画しているのが、アーツカウンシルしずおかの櫛󠄁野展正(くしののぶまさ)さんです。

以前は知的障害者福祉施設で働いていた櫛󠄁野さん。地域でユニークなものをつくる人たちに取材した際、独自の創作活動を行う高齢者の存在が多いことに気づきます。

既存の福祉制度では取り上げられず、また世の中から評価されることもなかった彼らの表現に注目し、否定的なイメージの「老い」をポジティブに捉えたい。そんな思いで、人知れず表現活動を続ける“超老芸術家”たちを見つけ、光を当てているのです。

それでは、今回紹介している超老芸術を見ていきましょう。

色彩豊かなお尻コレクション

まず櫛󠄁野さんの背景に写っているポップな作品は、女性のお尻だけを濃密に描いたもの。力強い色合いと、なんとも艶かしい曲線美に惹きつけられる、64枚のコレクションです。

作者は島根県の清水信博さん(1950年生まれ)。障害者支援施設のグループホームに入居後、お尻の連作を描き始めています。

画像提供:アーツカウンシルしずおか

「テレビで時代劇や温泉番組などを見ていて好みのお尻が映った瞬間にデジカメで撮影し、それをもとに独学で描いています。『(好みのお尻が)ないから描く』。持たざるもののエネルギーが炸裂しています」(櫛󠄁野さん)

水槽も自作!物語を感じる緻密なジオラマ

こちらのジオラマは、長野県下諏訪町で「ヘア・サロン ヒトツヤナギ」を営む一ツ柳外史春(ひとつやなぎ としはる)さん(1949年生まれ)の作品。木彫りをあしらった水槽も自作したものだそう。

画像提供:アーツカウンシルしずおか

創作のきっかけは、20年ほど前、テレビでジオラマ制作の番組を見ていて「これなら自分でもつくれる」と思ったこと。魚釣りが趣味という一ツ柳さんは、大好きな海をテーマに、なんと釣り道具を加工してジオラマをつくり上げています。しかもこの緻密さ!独学というのもすごい…。

隠れた芸術家は美容師、理容師さんに多い、と櫛󠄁野さん。「手先が器用で、空間認知能力に優れているのだと思います。なかでも一ツ柳さんの作品は、ストーリー性が感じられるところが唯一無二。たとえば夜の海をテーマにした作品には夜行性の魚を泳がせるなど、こだわりも尋常ではありません」

ビーチフェスをテーマにした作品では、なんと700体以上を紙粘土で制作。気が遠くなるほどの細やかさで、楽しそうな夏の瞬間を切り取っています。

巨大なカニが街を襲う、クライシスシリーズはド迫力!

ビビッドな赤が目を引くこちらの大作群は、静岡県の稲田泰樹さん(1949年生まれ)によるもの。お尻を描いた清水さん同様、高齢になってから表現が大きく開花したひとりです。

画像提供:アーツカウンシルしずおか

「大手電機メーカーに勤務していた稲田さんは、40代後半でタイに駐在。その際、駐在生活の誘惑に打ち勝つため花をスケッチするようになり、退職後にその絵を褒められたことがきっかけで、本格的に絵を描くように。巨大生物が都市を襲う『クライシスシリーズ』は、67歳から描き始めています」(櫛󠄁野さん)

プロジェクターで投影した風景写真等をトレースしていくという制作方法は、仕事で立体製図を描いてきた経験と技術の賜物。
それにしても、巨大なタラバガニやロブスターがなんともリアルで、おそろしいほどの気迫を感じます。
「ちなみに、モチーフのタラバガニやロブスターはじっくりスケッチし、その後は食べてきちんと供養しているそうです」

毎日描く雑巾に、搾取される自分を映す

広島県のガタロさん(1949年生まれ)は、30代から38年間、市営アパートにあるショッピングセンターでたったひとりの清掃員として働いてきた人。黙々と働く自分の掃除道具を愛おしく感じ、拾い集めた紙や鉛筆、クレヨンを使ってスケッチをするように。

2018年からは、絞った雑巾のスケッチを毎日、日記のように描き続けています。

画像提供:アーツカウンシルしずおか

「使い古され、水分を絞り取られた雑巾は、社会構造の中で搾取される存在である掃除夫という自分を重ねた、自画像なんです」(櫛󠄁野さん)

その日によって、淡い色がつけられていたり、言葉が添えられていたり。毎日異なる雑巾の佇まいに、さまざまな表情が宿っているように見えます。「若い頃から共にあった絵が、ガタロさんの救いになっているのでしょう」

ダジャレを彫刻で表現。くすりと笑える「パロディ笑刻」

ユニークな彫刻作品も人気を呼んでいます。
静岡県で自転車店を営んでいた岩﨑祐司さん(1946年生まれ)は、昔からダジャレが大好き。老後の趣味に木彫りをやってみようかと思いついたものの、仏像彫刻にはルールや縛りがある。だったら自分が好きなダジャレと木彫りを掛け合わせてみようと、「パロディ笑刻」なるものを発明したのです。

代表作は「リョーマの休日」。説明不要におもしろい!

画像提供:アーツカウンシルしずおか

「木彫制作は35歳から、独学で始めたといいます。しかもひとつの木材から彫っていく一木造り(いちぼくづくり)で、設計図など書かずに制作しているというから驚きです。なんといってもダジャレとの融合が素晴らしい。センスの塊です」(櫛󠄁野さん)

左の作品のタイトルは「一寸先はヤギ」、右は「雨降ってジジイ固まる」。どうですか、このユーモアと味わいのある表情の豊かさよ。
日本唯一の“笑刻家”の作品が見られるこのチャンスをお見逃しなく!

70歳で創作の道へ。漆黒の鉛筆画を夢中で描く

大きな紙に鉛筆で絵を描いているのは、滋賀県の井上優さん(1943年生まれ)。海外にも名の知れたアートセンターでもある障害者支援施設『やまなみ工房』のメンバーです。

画像提供:アーツカウンシルしずおか

「井上さんはやまなみ工房の喫茶店で15年間働いていたのですが、70歳のとき喫茶店が閉店することになり、アトリエに配置。多彩に表現するまわりの人たちに触発されて、創作活動を始めたのです」(櫛󠄁野さん)

井上さんの表現はA4の小さな紙では収まり切れず、今では横2mもあろうかという大きな紙の上に四つん這いになり、10Bの濃い鉛筆を使って黙々と描き続けています。

ただひたすらに毎日絵を描く。その日常の営みが、アートになるのです。

地元・長野の親しみあふれる超老芸術も

長野で高齢者の配食サービスをしている合同会社「ARTWINGLABEL(アートウィングレーベル)」も出展しています。

定期的に食事を配達することは、高齢者の見守りにもつながります。この会社では、配達先の高齢者と交流を深めるうちに、詩や書、絵を描いたり、折り紙や昆虫図鑑をつくったりと、ひそかに超老芸術を咲かせている人たちがいることに気づいたのです。

画像提供:信州アーツカウンシル

そこで、フリーペーパー「えんがわ」でそれぞれの作品を紹介。今回の超老芸術展では、その掲載作品の現物を展示しています。

「身近な高齢者の作品を見ていただくことで、超老芸術に親しみをもっていただけるのではと思っています」(櫛󠄁野さん)

年齢なんて関係ない。一歩踏み出す力をもらえる

超老芸術を鑑賞して感じたのは、それぞれにダイナミックで豊かな個性がほとばしっていること。それは社会的な立場から解放され、承認欲求などどこ吹く風、まわりの評価を気にせず創作活動に情熱を注いでいるからかもしれません。

経験を重ねて人間味は増し、どこか子どもの心に戻って創造を続ける超老芸術家たち。その姿に、老いも若きも大いに刺激を受けるはず。年齢を理由にして踏みとどまっているなんてもったいない、そう思わせてくれるに違いありません。

選りすぐった25名の超老芸術家の作品とインタビューをオールカラーで収録した、櫛󠄁野さんの著書「超老芸術」も必見です。帯文はアーティストでもある野性爆弾くっきー!さん。

館内のミュージアムショップでは、地元作家さんの素敵なクラフト作品を販売しています。

開放的な休憩スペース。北アルプスの山々とのどかな田園風景を眺めながらひと休みしていきましょう。

■イベント名:超老芸術展in池田町
■会場:北アルプス展望美術館(池田町立美術館)
    https://www.navam-ikd.jp
■住所:長野県池田町大字会染7782
■TEL:0261-62-6600
■期間:7月6日(土)〜8月25日(日)
■開催時間:9:00~17:00(最終入館16:30)
■休館:月曜(7月15日・8月12日は開館)・7月16日・7月30日・8月13日
■観覧料:一般600円 高大生450円 中学生以下無料
■アクセス:長野自動車道 安曇野ICより13.5km。公共交通機関の場合はJR大糸線安曇追分駅よりタクシー約6分(3.2km)
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