
信州の水と気候を生かしたウイスキーづくりを行う本坊酒造株式会社マルス駒ヶ岳蒸溜所。2025年には地元産の大麦を使った限定ウイスキーも発売し、地域とのつながりを深めています。今回は、森本さんと製造主任の秋山さんに、ウイスキーづくりへの思いや魅力について伺いました。

最適な自然環境を求めて、南信州の地へ
1872年創業、鹿児島に本社を構える本坊酒造は、焼酎やワインなど多彩な酒類を手がける老舗酒造メーカーです。1985年、長野県宮田村にウイスキーの蒸溜所を設け、信州の冷涼な気候と中央アルプスの伏流水を用いたウイスキーづくりを本格的にスタートさせました。
「山梨でウイスキーづくりを行っていたのですが、山梨ではワインづくりを中心に進めることになり、ウイスキーは別の場所で造ろうという話になりました。そこで、どこか適した土地はないかと探していたところ、ウイスキーづくりには欠かせない良い水と熟成環境を求めて、この地にたどり着いたんです」と森本さん。
おいしいウイスキーづくりに欠かせないのが熟成環境。マルス駒ヶ岳蒸溜所が位置する宮田村は標高が高く、昼夜の寒暖差が大きいのが特徴です。こうした激しい温度変化が、ウイスキーの熟成に独特の影響を与えていると言われています。
「我々は“樽の中で呼吸する”と表現しています。外気の温度差によって、樽の中のウイスキーが膨張したり収縮したりするんです。その繰り返しが、原酒に深みとまろやかさを与えてくれます」と秋山さん。
自然と共存し、時間をかけて育まれるマルスウイスキー。その積み重ねが、多くのファンをつかむ味わいにつながっています。

地元の自然で育まれた大麦でつくる“上伊那を感じられる”ウイスキー
マルス駒ヶ岳蒸溜所がある宮田村では、ウイスキー用の大麦を栽培する農家があり、蒸溜所の依頼を受けて原料づくりに取り組んでいます。
「約10年前に、地元の原料を使ってウイスキーがつくれないかという話が持ち上がり、その頃から少しずつ準備を進めてきました」と秋山さん。
そして2025年、宮田村産の大麦を使用したウイスキーがついに商品化されました。抽選に当選した方のみが購入できる特別な一本「蒸溜所祭り記念ボトル」として、2025年5月に行われた「マルス駒ヶ岳蒸溜所祭り」にて、数量限定で販売されました。
味わいは?と聞いてみると「樽の成分が相まって、どっしりとした重厚感のある仕上がりになっています」と秋山さん。
宮田村産の大麦は、収穫量も年々増えているとのことで、今後の展開にも期待が高まります。

テイステイングや蒸溜所見学、お土産選びも楽しめる!
マルス駒ヶ岳蒸溜所に併設されたテイステイングバーでは、現在販売中のウイスキーだけでなく、地元産の大麦を使った「蒸溜所祭り記念ボトル」をはじめ、過去に販売していた限定銘柄など、希少なウイスキーの飲み比べなども楽しめます。
さらに、ウイスキー以外にも、宮田村産のブドウを使ったオリジナルワインやジュース、クラフトジンやクラフトビールなど、多彩なメニューを味わうことができます。
蒸溜所は見学も可能(受付時間:9時~15時30分)。見学後は、併設のショップでお土産選びも楽しめます。
2025年9月に発売された「シングルモルト駒ヶ岳」(TOP画像参照)は、アップルティーや杏を連想させる華やかな香りが特徴です。「ウイスキーを飲みはじめた方とか普段飲まない方。なんなら苦手に感じている方にぜひ試していただきたいです」と森本さん。
「シングルモルト駒ヶ岳」以外のウイスキーやワインをはじめ、地元産ぶどうを使ったジュースやワインドレッシングなど、充実した品ぞろえが魅力です。

今後、何かやりたいことはありますか?と秋山さんに尋ねてみたところ、「現在育てている大麦とは違う品種にも挑戦してみたいですね」との返答が。「私の個人的な願望なので難しいかもしれませんが、いろいろ試してみたいことはたくさんあります」
ウイスキーは大麦を収穫してすぐに完成するものではありません。原料を仕込み、樽に詰めたあと、3年以上という長い時間をかけて自然の力で熟成され、ようやく製品になり私たちの元に届けられるのです。
「ウイスキーづくりって、人が関わるのはほんの一瞬なんです。あとは樽の中で、自然がゆっくりと育ててくれる。まだまだ、ここがゴールだとは思っていません。もっと良いものを目指して、これからも努力を続けていきたいです」(秋山さん)
信州の豊かな自然環境を最大限に生かしながら、丁寧に育まれるマルスウイスキー。
これからも、造り手の情熱と地域の恵みが詰まった一杯に出合えることを、心から楽しみにしています。
■購入場所
酒屋、スーパー、マルス駒ヶ岳蒸溜所、オンラインストア、ほか
■本坊酒造株式会社 マルス駒ヶ岳蒸溜所
https://www.hombo.co.jp/visiting/komagatake/