『旅情詩人』木版画家・川瀬巴水の世界 スティーブ・ジョブズも愛した作品など約180点展示 信州の風景にも注目@長野県・上田市立美術館

大正から昭和にかけて活躍した木版画家・川瀬巴水。その展覧会『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』が、サントミューゼ・上田市立美術館で開催中です。「旅情詩人」とも呼ばれた巴水が描いた日本各地の風景約180点を堪能できる貴重な機会となっています。スティーブ・ジョブズも愛した巴水の世界。その魅力を探ってみましょう。

《芝増上寺》東京二十景/1925年(大正14)年
 版元・渡邊木版美術画舗蔵

日本の原風景を切り取った『旅情詩人』

川瀬巴水(1883-1957)は、近代化の波が押し寄せ、日本が目まぐるしく変化していく中、原風景を求めて全国を旅し、四季折々の風景、庶民の暮らし息づく光景を描き続けました。郷愁を誘い、登場人物の表情が見えなくてもストーリーの想像が膨らむような「描き方」も見どころです。

大田区立郷土博物館蔵

「新版画」と呼ばれる巴水の作品群。新版画とは、浮世絵の伝統を継承しながらも新たな表現を探究して制作された木版画のこと。バレンの跡をあえて残す「ザラ摺(ずり)」などの新たな表現が取り入れられました。作品は絵師・彫師・摺師の分業体制で制作され、版元の渡邊庄三郎(現・渡邊木版美術画舗初代)らと一体となって「新版画」を牽引しました。

《日本橋(夜明)》東海道風景選集/1940(昭和15)年
 版元・渡邊木版美術画舗蔵

会場では初期の「塩原三部作」(《塩原おかね寺》《塩原畑下り》《塩原しほがま》)も見ることができます。これらは1923年の関東大震災の火災で版木や多くの作品が失われたため、希少性が高い作品です。

巴水の描く雨に注目

巴水の人気作には雨模様を描いたものが多くあります。《五月雨ふる山王》《雨の清水寺》《安庭の雨(長野県)》といった作品は、その日の雨量や温度感まで伝わってくるような描写力。繊細な雨の筋は彫師の「確かな腕」の証でもあります。

《安庭の雨(長野県)》/1946(昭和21)年
 版元・渡邊木版美術画舗蔵

スティーブ・ジョブズも

巴水の作品は海外でも高く評価されました。それは今も・・・。アップル・コンピュータの共同創業者・スティーブ・ジョブズは新版画に魅了され、巴水はお気に入りの作家だったと言います。《西伊豆木負》は銀座で購入した中に含まれていた作品だそうです。

《西伊豆木負》/1937(昭和12)年6月
版元・渡邊木版美術画舗蔵

巴水が描いた信州の風景

巴水は写生旅行で何度も長野県を訪れています。《白馬の雪渓》などの作品は実際に登山して写生したものです。上田会場では、県内を描いた5点《白馬の雪渓》《信州木崎湖》《信州松原湖》《安庭の雨(長野県)》《長野県稲荷山》が特別展示されていて、在りし日の信州の風景と出会えます。

《長野県稲荷山》/1947(昭和22)年
版元・渡邊木版美術画舗蔵

来場者からは「まるで旅行した気分。構図も色使いもとても良かった。東京から来た甲斐があった」「展示数が多くて驚いた。私は落ち着いた色合いの作品が好き」などの声が聞かれました。

会場には初期の名作から晩年の作品まで、年代順・連作(シリーズ)ごとに展示されています。「旅情詩人」・巴水の世界を、この機会に触れてみてはいかがでしょうか。

『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』

会期:2025年9月12日(金)〜11月16日(日)

開館時間:9:00〜17:00(最終入場 16:30まで)

休館日:火曜日(祝日の場合は翌日)

会場:上田市立美術館(サントミューゼ)

入場料: 一般1300円(1100円) 高校・大学生600円(500円) 小・中学生400円(300円) 

※()内は団体料金(20名以上)

問い合わせ:0268-27-2300(上田市立美術館)

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