
今年、創業100年を迎えた「いろは堂」。信州が誇る郷土食“おやき”の名店として広く知られ、県内外を問わず多くのファンに愛され続けています。県民にとっては、子どもの頃から親しんできた馴染みの味。そんなおやきを長年にわたり作り続けてきた思いやこだわりなどを、4代目店主・伊藤拓宗さんに伺いました。

パンづくりの技術が生んだ“焼きおやき”
1925年(大正14年)、おやきは買うものではなく、各家庭で作る時代。創業当初は和菓子店からのスタートでした。「和菓子のほかに学校給食のパンなども作っていたんです。しばらくして奥裾花自然園が見つかり、関係者が視察に来るということで『おやきを作ってくれないか』と頼まれたことが、はじまりだったと聞いています」
いろは堂のおやきの特徴ともいえるパンのような生地は、その当時の名残なのだそう。「生地の配合や焼き方など、今でも製法は当時から変わっていません」。外は香ばしく、中はふっくら焼き上げたいろは堂のおやき。一般的な蒸したおやきと食感が違うのはそのためです。
鬼無里からスタートしたいろは堂のおやきは多くのファンをつかみ、2022年には、長野インター近くに体験型施設「OYAKI FARM」をオープン。おやきの製造工程を見学・体験でき、おやきを、食べるだけでなく“知る・作る・楽しむ”ことができる場として、県内外問わず、多くの観光客に親しまれています。

おやきの“今”を体験する
館内には、年間500万個以上のおやきを製造する最新鋭の工場が併設されており、おやき作りの一連の工程を常時見学できます。生地をこね、具材を包み、焼き上げるまで、職人の手仕事と機械の動きが連携しながら、ひとつのおやきが形になっていく様子をガラス越しに見守ることができます。
スタッフの指導のもと、生地をのばし、具材を包み、揚げ焼きに仕上げるまでの工程を体験できる「おやき作り体験」も人気のコンテンツ。所要時間は約1時間で、完成したおやきはそのままお土産として持ち帰ることができるため、子ども連れのファミリーはもちろん、海外からの観光客にも大好評です。
また、おやきづくり体験といえば、伊藤さんをはじめ、いろは堂のスタッフが小学校に出向き、おやきに関する授業を行うこともあるとのこと。内容は、おやきの歴史や地域との関わりを学ぶ座学と、実際に生地をこねて具材を包む“おやき作り体験”を組み合わせた食育プログラムです。
「おやきの歴史や地理的な背景を知ったうえで、実際に作ってみることで、子どもたちの記憶に残る学びになります。将来、大人になったときに、自分の言葉で人に伝えられるようになってほしい、そんな思いで取り組んでいます」

地元に開かれた、おやきの拠点へ
「OYAKI FARM」にはカフェ&ショップも併設。
併設のカフェでは、焼きたてのおやきはもちろん、オリジナルブレンドのコーヒーや、おやき生地を使った「オヤキジホットサンド」や「オヤキジドーナツ」なども味わえます。
人気は食感が絶妙な『あんバタおやき』(400円)。「おやきの生地を使っているので、パンとはまた違う食感ですよね。あんこのおやきを買っていただき、おうちでバターを挟んでいただければ同じ味が楽しめますよ」
ショップでは冷凍おやきや、おやきTシャツなどの限定グッズ、地元の調味料なども購入できるので、旅のお土産にもぴったりです。
「ただ、この場所も単なる観光名所ということにはしたくないんです。地元の人にも気軽に来てもらえる、地域に根ざした存在でありたいと思っています」

今後は、子どもたちや地域の人々を巻き込みながら、おやきの認知を広げる取り組みをさらに進めていきたいと伊藤さんは話します。
「子どもたちにオリジナルのおやきを考えてもらい、人気投票を行う『おやき総選挙』のようなイベントをやってみたいと思っていて、現在構想中です」
おやき文化を地域のなかで育て、次の世代に意識を持ってもらうこと。そして、県外や海外の方にもその魅力を知ってもらい、認知やマーケットを広げていくこと──それが、いろは堂として長野の魅力を発信する、ひとつの貢献のかたちだと考えています。
■購入場所
鬼無里本店、OYAKI FARM、ながの東急店、MIDORI長野店、善光寺仲見世店、小布施店
■いろは堂
https://irohado.com/